悲しみの焔

その焔の剣は、超然とした表情のまま、彼を見下ろしていた。
僅か七歳の少年の細い腕には重過ぎる、期待。
目を瞑り、必死で高鳴る鼓動を静めようと足掻くその少年を、剣は最後まで認めようとはしなかった。

「何ということだ!」

王は薄茶けたままの剣をかかげた息子を見つめ、絶望して叫んだ。
彼の息子、ギュスターヴ十三世は、紛れもない術不能者だった。
息子はアニマの欠片すら持ち合わせていない、そう気づいた、その瞬間、最愛の息子は石ころにかわった。
かえざるをえなかった。
父である前に、王だった。
そして、息子である前に、王位を継ぐものだった。
権力という名の冷たい鎖が、彼に父である事を許さなかった。

「石ころともどもここを去れ!」
無慈悲な王は、王位を継ぐ事のできない石ころと、石ころの母に叫んだ。
怯え、絶望、諦め、そして…拒絶。
二人の瞳に浮かんだ色から目を背け、その場を後にする。
もう、二度とこの、何もかも暖かだった部屋に戻ることはないだろう、とぼんやり考えながら。

彼は、最愛の息子も、最愛の妻も、一度に、二つの最も大切なものを失った。

「神よ…何故…」

王宮から遠ざかる影。
あれに…ギュスターヴに、ほんの僅かでよかったというのに、何故アニマをお与え下さらなかったのか。
深く椅子に身体をうずめ、目を閉じる。
目の裏に焼きついた、遠くない過去の日の光景が、彼を苛み続けた。
「ソフィー…ギュスターヴ…」
幸福そうに微笑んでいた母子の姿は、涙ににじんできえた。

*

やわらかな日差しは、ただ傷をえぐるだけのものでしかなかった。
何故なら、彼にとってただ一つの太陽はもう、そこにはいないから。
五歳にしかならない少年にとって、母という存在はどれほど大きく、そして、どれほどかけがえのないものであっただろうか。
泣きはらした目からは未だとめどなく涙がこぼれ、ぼやけた視界にはかつての家族の肖像が映る。

「おかあさま〜」

肖像画の中で、兄も、自分も、微笑んでいた。
…そして、母も。

フィリップ、五歳。
彼の心を照らす灯火は消え、かわりに黒々とした影が彼の心を覆い、蝕んでいった。

*

王である為なら、何でもできた。
権力の代償に、何もかもを捨てた。
テルムの玉座と引き換えに、私は心を殺した。

なのに、何故…何故、傷がいつまでも疼くのだろう。

「先生、最後にお聞きしたい。何故、あれにアニマがないと教えてくれなかったのですか?」
そして、何故、神はあの子にアニマをお与え下さらなかったのですか…。

王の問いかけに、シルマールは思わず表情を曇らせた。
何故、あの子に…彼もまた、何度も心の中でそれを問うた。
あの、清らかで、賢い子供に、何故。

「私にも、わからなかったのです。彼には強いアニマがあると感じたのですが…」

アニマでないとしたら、あの子の放つエネルギーは一体何だったのであろうか。
生命力に満ち溢れた、あの強いエネルギーは。

「…王家にこのような人物が現れることに、何か運命的なものも感じます」

一息に告げると、彼は黙って王を見つめた。
ギュスターヴ、アニマを持たぬ不肖の王子。
彼はその力で、どこまでゆけるのだろう。
その悲しみで、何を得るのだろう。

「運命か…私は普通に王位を継いでくれる息子が欲しかったよ」

シルマールはその時既に、テルムの王位などではおさまりきらない程大きなものを、ギュスターヴから感じとっていたのかもしれない。

*

ギュスターヴ十三世、七つの時、全てが始まり、歴史は動き始めた。
その大きな流れからすれば、王の負った傷も、弟の心におちた影も、何の意味も持たないのだ。


C O M M E N T
シナリオ中の会話に、捏造を交えて書いてみました。
ギュス編は考えれば考えるほど深く、妄想が止まらなくて困る(笑)

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